近年、企業が賃金体系の見直しを進める中で、手当の役割とその設定方法について再考する動きが多く見受けられます。グローバル化やデジタル化の進展、労働市場の変化などが要因であると考えられます。
手当は単なる金銭的報酬を超えて、企業の価値観やビジョンを示す重要な要素になってきています。従業員の多様なニーズに応えるだけでなく、企業の長期的な成長と持続可能な関係を築くためにも、手当の見直しは必要であると考えられ、特に、社会や働き方の変化に対応した手当が注目されています。
手当の基本的な考え方
手当には大きく分けて、法的に支給が義務付けられているものと、企業が任意で定めるものの二種類があります。前者は主に残業手当や休日出勤手当などの時間外勤務手当を指し、これらは労働基準法によって保護されています。後者は、通勤手当や出張手当、住宅手当などは企業の裁量で支給されるものであり、従業員の家族状況や職位、仕事内容により企業ごとに設定されるものです。
近年、企業の裁量で支給される手当の見直しが進んでいます。例えば、扶養手当や家族手当は、業務実績との関連性が薄いとされている上に共働き世帯が増えていることにより、配偶者への支給を止め、子どもへの支給を手厚くする動きが多く見られます。資格手当については、資格マニアのような社員が出ないよう、自社ビジネスに直接関連するものに限定する動きが見られます。また、「同一労働同一賃金」の原則が導入されたことで、正規社員と非正規社員の間で不合理な待遇差を解消するための手当の見直しも必要とされており、例えば、家族手当などのこれまでは正規社員のみに支給されていたものを非正規社員にも支給するなど、全社員に統一した支給を実現する動きも出てきています。
手当の最新動向
近年導入が進んでいる手当には、下記のような考え方が反映されたものが多くあります。
(1)フレキシブルな働き方に関する手当
リモートワークやフレックスタイム制度の普及にともない、従来の通勤手当や勤務地手当などの見直しが行われています。例えば、リモートワーク手当として、自宅での通信費や電気代を補助する企業が増えています。また、コワーキングスペースの利用費を補助する手当も見られます。
(2)健康管理手当
健康経営が注目される中で、従業員の健康管理を支援する手当が増加しています。健康診断の費用補助や、ジムの利用料補助、メンタルヘルスサポートに関する手当がその例です。これにより、企業が従業員の全体的な福祉を重視していることを示し、従業員満足度の向上を図り、採用においても優位性を高めようとする企業が増えています。
(3)ダイバーシティ手当
企業のダイバーシティ&インクルージョン(D&I)推進の一環として、LGBTQ+支援手当や育児・介護手当の充実が進んでいます。例えば、同性パートナーへの扶養手当や、育児休暇を取得しやすくするための手当が支給されるケースがあります。これらの手当は、従業員の多様なニーズに応えるとともに、企業の社会的責任(CSR)を果たす手段ともなります。
(4)エンゲージメント向上手当
従業員のエンゲージメントを高めるための手当も注目されています。成果に基づくインセンティブ手当などがその一例です。また、従業員の働きがいを高めるためのインセンティブとして、目標達成手当やプロジェクト成功手当などが支給されることもあり、これらにより従業員のモチベーションを高め、組織全体のパフォーマンス向上を目指す企業が増えています。
(5)自己啓発やキャリアアップを支援するための手当
資格取得費用や自己研鑽のための研修費用などの補助が含まれます。企業はこれらの手当を通じて、従業員のスキルアップを支援し、ひいては企業全体の競争力向上を図っています。
今後、手当の考え方や支給基準はさらに変化していくと考えられます。従業員一人ひとりのニーズに応じた福利厚生の意味を含む手当や健康のデータを基にした最適な手当などを設計し、多様化が進んでいく流れに対応していく必要があります。
手当の考え方や動向を理解することで、従業員の満足度を高め、他社との競争力を維持するための賃金体系を構築することが、今後ますます重要になってきます。