会社業績と連動した賞与制度設計のポイント

業績連動型賞与の概要と特徴

業績連動型賞与とは、企業の収益に応じて支給する賞与原資を変動させる制度です。売上高や利益率、成長率などの指標を基準として、基準を超える成果であれば賞与(原資)が増加し、逆に不調であれば減少する仕組みです。従業員が、組織全体の目標達成を意識するようになるので、従業員のモチベーション向上、会社と社員双方における成長の一体感を醸成できるという目的で、多くの企業で導入が進んでいます。

業績連動型賞与の基本的な考え方として、①該当する期における総原資の決定、②支給対象社員の評価に応じて配分するというフローがあります。①総原資の決定は、各企業が重視したい項目や指標を組み入れて変動させるため、計算方法は企業によって異なります。
実際に支給する金額は、総原資を越えない(下回りすぎない)ように配分されるため、基本給などの算定基礎額に支給月数を掛ける方式の場合、基準となる標準評価の支給月数が総原資に合わせて変動するというイメージです。人件費総額をコントロールできるという点は、賞与という賃金の基本的な特徴であり、企業にとっては、前述した社員との一体感の醸成という点以外でもメリットが大きいと言えます。以下、業績連動型賞与を設計する際のポイントなどについて、解説していきます。

業績連動型賞与の設計ポイント

①評価指標の選定

業績連動型賞与の設計では、「評価指標」を選定することが最も重要です。 評価指標には売上高、生産高、営業利益、経常利益などが代表的なものとして挙げられます。どれを基準とするかは、企業の業種や事業構造、働いている従業員の職種といった要素を加味して検討する必要があります。企業の実態とかけ離れた指標を基準とすると、従業員からの納得感を得られず、制度を導入する目的が達成できなくなってしまいます。

また、会社全体の目標に加え、部門ごとに適切な評価指標を設定すると、個人やチームの業績への貢献度を正しく反映することが可能です。例えば、企業全体の目標指標は営業利益(または経常利益)としたうえで、営業部門については売上高、サポート部門については販管費などのコストの削減・効率化を指標とすれば、企業全体の指標と各部門の指標が連動していることが従業員にもわかり、それぞれの指標達成に向けて業務に取り組むことができます。

他の評価指標の項目として、キャッシュフローや株主価値(ROA:総資産利益率、ROE:自己資本利益率など)基準も挙げられますが、従業員目線では、自身の業務との連動性が見えづらくなる(当事者意識が希薄になる)という点から、あまり採り入れられない傾向にあります。

②賞与額の変動幅と計算方法

次は賞与原資の変動幅と計算方法の設定について解説します。評価指標の目標への達成度合いに応じて、賞与原資の変動率を設定するのが一般的です。従業員に対して、業績が良い場合には賞与原資が増加する一方で、業績が悪い場合には賞与原資が減少することを明確にしなければなりません。

具体的には、達成度が100%を超えた場合の増加率、100%未満の場合の減額率といった具合で、目標達成度によって賞与額が変わる「変動幅」を設計します。基準額(当初予算の100%)となる範囲の設定は、評価指標の達成度合いが目標値の5%刻み(例 達成度合い95~105%)が一般的と言われています。基準の設定についても、企業ごとの事業形態に応じて、見極めることが重要です。

また、一定の基準を満たせない場合に支給額がゼロとならないように、最低保証額を設定するといったルールを設けるかどうかも、検討する必要があります。

③個人評価との連動

業績連動型賞与を導入するにあたり、個別の賞与金額の算定項目として、個人の評価結果を反映させることも検討する必要があります。組織全体の目標を達成しても個人の評価が低調であれば、対象者は相対的に支給される金額が低くなるように、一方で、組織全体の目標は達成できなくても個人としては最大限の成果を出した場合は、相対的に高い金額が支給されるといったことも、社員の納得性を高めるために必要な視点となります。

④透明性と説明責任

業績連動型賞与を導入する際は透明性を優先し、従業員に制度内容を理解してもらうための説明の機会を設けることが重要です。 従業員が支給額の決定方法や評価基準に納得しなければ、反対に全体のモチベーションを下げてしまう恐れがあります。

そのため、①賞与原資の算定指標や基準となる数値の根拠、②個別評価結果が支給金額の算定にどう反映されるかといった内容を明確に説明し、従業員に納得感を持ってもらうことが必要になります。 特に、業績が悪化して賞与が減少する際には、どのような状況あるのかを丁寧に説明し、従業員に向けて理解を求めることが大切です。

業績連動型賞与に向いている企業の特徴

業績連動型賞与は、全ての企業にとって恩恵があるという訳ではなく、導入して上手く機能させるためには、一定の条件を満たしている必要があります。以下は業績連動型賞与と相性がよい企業の特徴となります。

①チームワークや一体感が重要な企業

チームで協力して目標を達成することが重視される業界や企業は、業績連動型賞与との相性がいいと言われます。会社全体の収益に応じて支給額が決定されるため、組織全体での達成感や一体感が醸成され、チームとしてのパフォーマンス向上を促進します。

②成果主義や目標管理が浸透している企業

成果主義や目標管理が社内にしっかりと根付いている企業では、日常的に目標達成の進捗が確認され、必要に応じて行動計画が修正される環境であるため、業績連動型賞与の導入が従業員のモチベーションアップに繋がりやすくなります。

業績連動型賞与が向いていない企業の特徴

以下は業績連動型賞与と相性がよくない企業の特徴となります。

①外部環境が業績に強い影響を与える企業

農業や製造業など、天候や資源価格といった外部環境の変化によって業績の増減が発生しやすい企業は、個人の成果が会社業績に反映されにくい点が、業績連動型賞与と相性が良くない理由となります。また、前年度は好業績であったことで、業績と連動して次年度の賞与予算を増やしたものの、次年度は外部環境の影響で業績が悪化し、キャッシュが不足してしまうということも懸念されます。

②急を要する投資の機会が多い企業

製造機械などへの投資余力を残す必要がある企業も、業績連動型賞与と相性がよくありません。設備の故障が発生してラインが止まることを防ぐために、メンテナンス・修理・代替機購入のための手元資金をストックしておく必要があり、人件費の変動というリスクを取ることが難しいとされます。

③規模が小さい企業

まだ売上・収益の規模が大きくない企業も、設備投資などを念頭にキャッシュのストックが必要になるため、労働分配率について一定の基準を設けることを前提とすると、業績連動型賞与は必要ないと言えるかもしれません。

業績連動型賞与を導入する際の注意点

①導入する目的を明確にして従業員の理解を得る

業績連動型賞与について検討する際には、導入する目的を明確にし、従業員にその内容を伝えて理解を得ることが重要になります。現状自社が抱えている問題は何なのか、抱えている課題に業績連動型賞与を導入することで対応できるのかということを検討し、効果的な運用に繋げることが必要です。

また、先述した業績連動型賞与のメリットの中には、企業側の視点(総額人件費のコントロール・従業員の目標達成意識の醸成)と従業員側の視点(頑張るほど報われる)、それぞれの内容があります。総額人件費のコントロールという目的が企業側にあったとしても、そうした背景を伝えつつ、従業員にもたらされるメリットも含めて丁寧に説明することが、制度導入への理解に繋がります。

②キャッシュアウトへの留意

従業員へ賞与を支給する際、支給タイミングでまとまった現金を確保しておくことが求められます。業績変動が激しい、または為替リスクや資源高といった外部環境の影響を受けやすい業界では、売上が落ち込むタイミングと賞与支給のタイミングが重なってしまった場合に、賞与原資を借入によって調達しなければならないといった対応が必要になることもあるため、注意が必要です。
業績が好調で賞与の支給原資が大きくなることが予想される場合、支給分のキャッシュを確保することは意識しておくとよいでしょう。

まとめ

業績連動型賞与を導入することは、従業員のモチベーションを高め、組織目標への意識向上と一体感を醸成するメリットがあります。制度を設計する際には、自社の実態に合った評価指標の選定、達成度合いに応じた賞与額の変動幅、最低保証額の設定、透明性の確保といった点を考慮しつつ、導入する目的を明確にすることで、従業員の納得感が高まることを期待できます。