ノーレイティングとは
人事評価制度において、従業員の評価でA・B・Cのランク付けや点数化などのレイティング(評定)を行わない手法を「ノーレイティング」といいます。ノーレイティングでは評価の数値化は行いませんが、従業員の行動や成果に対するフィードバックを重視した評価を行います。日々の業務を通じてマネージャーが従業員に対して定期的にフィードバックを行い、従業員の成長や改善を促すことを目的としています。
ノーレイティングが注目されている背景
働き方が多様化し、リモートワークやフレキシブルな働き方が増える中で、固定的な基準によって行われるレイティングを使った評価制度では、個々の従業員の多様な働き方や貢献度を反映できないことがあります。また、変化の激しい現代のビジネス環境では、迅速な対応と継続的な改善が求められますが、従来の評価制度では年次や半期で評価が行われることが多く、フィードバックの遅さが指摘されています。
レイティングは従業員のモチベーションに悪影響を与える場合があります。役割や業務内容が目まぐるしく変化する中で、前もって評価表に記載された評価項目に従って「平均的」と評価された社員は、自分の成長や努力が適切に評価されていないと感じることが多く、それが生産性やエンゲージメントの低下につながる可能性があります。 また、フラットで協力的な組織文化を目指す企業が増えている中で、従来の評価制度(レイティング)では社員同士の競争が助長されたり、チームワークやコラボレーションが損なわれるリスクがあるため、ノーレイティングへの移行が検討されるようになっています。
ノーレイティングのメリットとデメリット
ノーレイティングの導入については、自社に適した手法あるのかを確認する必要があります。メリットとデメリットを記載しますので、自社の組織文化浸透や社員成長に役立つのか、ノーレイティング導入に意義があるのかを検討してみてください。
【メリット】
①モチベーション向上
ノーレイティングは、数値やランクに基づかないため、従業員が自己成長やキャリア開発に集中しやすくなります。個々の貢献が評価され、競争よりも自己改善にフォーカスが置かれることで、モチベーションの向上に繋がります。
②柔軟で継続的なフィードバック
ノーレイティングでは、定期的な評価に頼らず、日々のフィードバックを重視します。これにより、従業員は常に自分の進捗や改善点を把握でき、即座に行動を修正することが可能になります。また、働き方が多様化する中で、個々の従業員の状況に応じた評価やフィードバックを提供できるため、フレキシブルな働き方やリモートワークにも対応しやすい仕組みといえます。
③チームワークの促進
ランキングや評価点数などのレイティングがないことで、従業員同士の競争が減り、協力して成果を上げる文化が促進されます。これにより、チームワークが強化され、組織全体のパフォーマンスの向上が期待できます。
【デメリット】
①処遇根拠の不透明感
ノーレイティングでは明確な数値基準や評価ランクがないため、従業員を客観的に比較することが難しく、評価が曖昧になりがちです。これが昇進や報酬の決定において不透明感を生む可能性があり、従業員の不安やモチベーション低下につながる可能性があります。
②フィードバックの質がばらつくリスク
継続的なフィードバックが求められる一方で、マネージャーによってフィードバックの質や頻度に差が生じることがあります。一部のマネージャーが適切なフィードバックを提供できない場合、従業員の成長を阻害するリスクがあります。
③導入時のコストや手間
従来の評価制度をノーレイティングに切り替えるためには、マネージャーや従業員のトレーニング、新しい評価文化の浸透などに、時間やコストを要することがあります。従業員に新しい考え方を定着させるには労力が必要です。ノーレイティングは、従業員の成長とモチベーション向上に寄与し、柔軟な働き方にも対応できる一方で、評価の客観性やプロセスの透明性に課題が残る可能性があります。これらのメリットとデメリットを十分に理解し、自社の組織文化や人材育成の方針を鑑みて、ノーレイティングの導入についてはよく検討することが必要です。
ノーレイティングでどのように給与を決めるのか
デメリットの一つとして処遇根拠の不透明感を挙げましたが、ノーレイティングではどのように給与を決めるのかここで解説します。ノーレイティングでは、数値評価やランク付けを行わないため、社員個人ごとの昇給金額の決定は従来の評価制度とは異なるプロセスが取られます。従業員の給与は、会社から提示された人件費予算をもとに、マネージャーの裁量で決定することが多いです。そのため、給与の決定という点からもマネージャーにかかる負担や裁量が大きくなります。昇給額は、以下のような要素を組み合わせたマネージャーの総合的な判断に基づいて決められます。
①目標達成度と貢献度
社員が設定した目標の達成度や、組織やチームへの貢献度が昇給額に影響します。例えば、どれだけ組織の目標に貢献したか、プロジェクトの成果にどう影響を与えたか、目標達成に向けた行動や取り組み方などが評価されます。
②スキルや専門性の向上
社員のスキルアップや専門性の向上も昇給の決定に影響します。研修や資格取得、新しいスキルの習得、特定の分野で専門知識を深めたり、新しい業務に挑戦など、成長やスキルをどの程度向上させたのかを重視します。
③役割や責任の拡大
社員が新たな役割や責任を引き受ける場合、それに伴って昇給が行われることがあります。リーダーシップを発揮したり、マネジメントの役割を担うことで、給与が上がるケースが一般的です。
④市場価値に基づく調整
昇給額は、個人の市場価値や業界内の給与水準に基づいて決定されることもあります。給与が市場価値と一致しているかどうかを定期的に見直し、必要に応じて昇給が行われます。
⑤組織やチームの業績に連動
個人の昇給額が、企業全体や所属するチームの業績に連動するケースもあります。例えば、部門やチームが目標を達成した場合、その成果がメンバー全員の昇給に反映されることがあります。ノーレイティングでは、従業員の昇給額は定量的な数値評価に基づくのではなく、フィードバック、目標達成、スキル向上、役割拡大、そして市場価値などの要素が総合的に考慮されます。昇給の透明性と公平性を確保し、社員が自己成長を実感できるような仕組みを整えることが、ノーレイティングにおける昇給制度の成功のカギとなります。
ノーレイティングが適している企業と適していない企業
自社がノーレイティングを導入することで社員が成長するのかを十分に検討する必要があります。以下に、ノーレイティングが適している企業と適していない企業を記載しますのでノーレイティング導入検討の参考にしてもらえればと思います。
【ノーレイティングが適している企業】
①イノベーションを重視する企業
IT企業、スタートアップ、デザインや広告業など、個々の従業員の創造力や柔軟な発想を引き出すことが重要な創造性(クリエイティブ)や革新性(イノベーション)が求められる企業。
②チームベースで働く企業
コンサルティングやプロジェクトベースの業界など、個人の競争よりもプロジェクトごとの成果や全体への貢献、チームワークやコラボレーションが重要視される企業。
③柔軟な働き方を推奨する企業
従業員の働き方が多様化しており、リモートワークやフレックスワークを採用している企業。ノーレイティングは、定期的なオフィス勤務に依存しない評価体制を持つため、リモート環境でも適切にフィードバックを行い、従業員の貢献度を柔軟に評価できます。
④フラットな組織構造を持つ企業
階層や役職の数が少なく、トップダウンの評価よりもオープンなコミュニケーションとフィードバックが重要なフラット組織の企業。
【ノーレイティングが向いていない企業】
①明確な成果や数字が重要な企業
個々の成果を明確に評価することが報酬や昇進に直結するような、営業、製造業、財務など、業績が数値で明確に測定される職種や業界の企業。
②伝統的なヒエラルキーを持つ企業
階層的な組織構造を持つ企業や、長年にわたり従来の評価システムに慣れ親しんでいる企業。権限や報酬が役職に強く結びついている場合、評価の基準が曖昧になることで不満が生じる可能性があります。
③厳格な成果主義文化を持つ企業
成果主義を強く掲げ、成果に基づいた評価と報酬を提供する企業。特に、個人のパフォーマンスが評価やボーナスに直結する企業では、レイティングを外すと公平性や透明性が失われるリスクがあります。
④フィードバック文化が成熟していない企業
マネージャーが適切なフィードバックスキルを持っていない企業。フィードバック文化が十分に根付いていない企業では、フィードバックの質にばらつきが生じ、制度の効果を最大限に引き出せない可能性があります。
まとめ
多くの日本の企業ではノーレイティングを導入することは難しいと考えます。従来の評価制度(レーティング)を行っている企業において、ノーレイティングへの移行は評価制度の大幅な改定となるため、従業員に与える影響はとても大きなものになります。また、マネージャーには高度なマネジメント能力や自律性が求められることや、権限や負担が増大することに留意する必要があります。
ノーレイティングは、数値評価を重視し、成果や厳格な成果主義文化を持つ企業には、必ずしも適さない場合があります。一方、柔軟な働き方を推奨し、従業員の成長や協働を重視する企業に向いています。
自社がどのような組織文化やビジネスモデルを持っているかをふまえて、前述のメリットやデメリットなどをよく理解し、ノーレイティングの導入の際には社内で慎重に検討することが必要となります。