人事業務の生産性を高めるHRテック導入のポイント

複雑化する人事業務をテクノロジーの力で効率化

(1)日本企業の人事部門が抱える新たな課題

現代の日本企業における人事部門は、かつてないほど多様化し、複雑化しています。その背景には、2020年以降の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響による在宅勤務の推進、働き方改革による過剰な時間外労働の抑制、欧米型のジョブ型雇用の導入などがあります。これらの変化は、企業の人事・総務部門に新たな課題をもたらしました。

また、近年では「人的資本経営」という概念に注目が集まっております。これは、限られた人材の能力を最大限に引き出すことを目的とした人事戦略であり、企業経営における重要なテーマとなっています。ここで「HR(Human Resources)」という言葉が指すのは、単なる「人材」や「人的資源」だけでなく、企業活動における広範な人材管理を含みます。

このような人材管理を支えるために登場したのが、HRテクノロジー、通称HRテックです。

(2)HRテックの概要と進化

HRテックは、人事部門の業務を支援し、効率化を図るためのテクノロジーの総称です。人事部門の業務は「採用」「社員教育・研修」「人事評価」「人事異動」「人事制度企画」など、多岐にわたります。加えて「労務」部門では「勤怠管理」「給与計算」「入退社手続き」「健康管理」「労務トラブル対応」が求められます。

これらの業務は、特に評価やデータ集計などの面で、完全な自動化が難しいとされてきました。たとえば、評価表の作成や給与計算にはExcelが使用されてきましたが、進捗の把握やデータの集計には手作業が必要でした。また、経営環境の変化により、HR部門の業務はますます複雑化しています。

近年、クラウド技術やビッグデータ解析の発展に伴い、HRテックの導入が進んでいます。クラウド技術の導入により、これまで自社のPCやサーバーにインストールしていたソフトウェアがインターネットを通じて利用可能となりました。これにより、社員の評価や給与計算などもWEB上で実施可能となり、データの集計や税率の改定に自動的に対応できるようになりました。

(3)HRテックの市場拡大とその要因

HRテックの市場は急速に拡大しています。デロイトトーマツミック経済研究所の2023年3月6日の調査によれば、2022年度のHRテッククラウド市場規模は約800億円と見込まれ、前年度から30%以上の成長を遂げました。この成長は、今後も年平均で約30%の成長を維持し、2027年度には3000億円に達する予測しています。

この成長の要因には、人的資本経営への関心の高まり、情報開示義務化に向けた社内リソース管理の必要性、改正電子帳簿保存法による電子取引データの保存義務化が挙げられます。また、IT導入補助金制度も成長を後押ししています。この制度は、中小企業・小規模事業者が業務効率化やデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めるためのITツール導入を支援するものです。

中小企業がHRテック導入を導入する際のポイント

(1)中小企業がHRテックを導入するメリット

HRテックの導入は、大企業に限らず、中小企業でも広がりを見せています。中小企業は、業務が体系化されておらず、担当者が一人で業務を全般的に行っていることが多いため、HRテックの導入によって業務の効率化が期待されています。HRテックの導入によって、定型業務の自動化や情報管理・共有の改善が進み、業務負担が軽減されます。

特に、クラウド上での人事情報の収集・管理が可能になることにより、データの可視化や発展的な人事戦略の立案が実現できます。タレントマネジメントや従業員の離職防止など、中小企業にとってもHRテックの導入が有効であることが多くの事例で示されています。

(2)HRテック導入のポイント

HRテックを導入する際には、まず自社のHRに関する課題を整理し、テクノロジーで解決できるポイントを明確にすることが重要です。また、導入の目的や中長期的な目標を設定し、そのために必要なシステムの機能を明確にすることも大切です。これにより、システム選定の際の指標が明確になります。下記にシステム選定時のポイントを記載します。

  • HR関連の専門知識を持つ事業者を選定する
    HRテックの導入は、単なる業務効率化にとどまらず、中長期的な人事戦略の立案にもつながります。専門知識を持つ事業者と連携することで、より適切な提案が受けられます。
  • トライアルサービスを活用する
    複数のシステムを比較するために、無料トライアル期間を活用し、自社のニーズに最も適したシステムを選定します。トライアルを通じて実際の操作感や問題点を確認することができます。
  • 社員の意見を集約する
    システム導入に際しては、ITに不慣れな社員や異なる階層の意見を集めることが重要です。これにより、全社員にとって使いやすいシステムが選定できます。

HRテックは、現代の複雑化した人事業務を効率化し、戦略的な人事管理を実現するための重要なツールです。クラウド技術やビッグデータ解析の進展により、HRテックは急速に成長しており、大企業にとどまらず中小企業にも導入する動きが広がっています。

ただし重要なことは、HRテックを導入することそのものでなく、自社の人事部門における課題を理解し、その解決の手段としてHRテックを利用するということです。そのため、単にHRシステムをリリースしている企業でなく、人事部門の専門的な見識を持ち、その内容をHRシステムへ反映している事業者を選定する必要があります。そうした事業者と、システムを導入することが自社の課題解決へどう結びつくかという道筋を確認しておくことを強くお勧めします。その際には、トライアル期間を利用して、複数の候補の中から、適切なシステムを選定することも成功への近道となります。