OKR(Objectives and Key Results)は、企業が目標を明確にし、組織全体で一体感を持って成果を追求するための強力な手法です。市場の変化に迅速に対応し、社員のエンゲージメントを高めることができるOKRについて解説します。
OKRの基本概念
OKRは日本語で「目標と主要な成果」と訳されます。OKRの目的は、単に目標を設定することではなく、設定した目標に向かって組織が一丸となって進むことを可能にし、その結果としてパフォーマンスを向上させることです。
①Objective(目標)
Objectiveは、達成したい「何を」の部分です。ここでは、企業やチームがどのような状態を目指すかを明確にし、インスピレーションを与える目標を設定します。Objectiveは具体的で達成意欲をかき立てるものであり、明確なゴールを示す必要があります。
②Key Results(主要な成果)
Key Resultsは、「どのように達成するか」の指標です。Objectiveを達成するために必要な具体的な成果や数値目標を定めます。Key Resultsは測定可能であることが重要で、進捗の確認を容易にし、達成状況を明確にする役割を果たします。OKRでは通常、1つのObjectiveに対して3〜5つのKey Resultsを設定します。
会社全体のOKRとしての例を以下に3つ挙げます。それぞれ、企業が目指す姿をワクワクするような目標として設定し、実現に向けた具体的な「K」を定めています。
例1:イノベーションの推進
O :お客様に「次もこの会社の製品が欲しい!」と思ってもらえる製品を作り出す
KR1:新製品のアイデアを社内コンテストで20件以上
KR2:プロトタイプ開発を3件実施し、80%以上の好評価を得る
KR3:議事ごとに異部門のイノベーションミーティングを2回開催する
例2:働きがいのある職場作り
O :社員全員が「この会社で働いてよかった」と感じられる職場を作る
KR1:社員満足度調査を実施し、満足度スコアを80%以上にする
KR2:全社員向けキャリア研修を定期ごとに実施し、参加率を90%以上にする
KR3:リフレッシュイベントを毎月1回開催し、リテンション率を95%以上に維持する
例3:業界トップクラスのサステナビリティ企業を目指す
O :業界で最も環境に配慮した、持続可能な企業として認知される
KR1:CO2排出量を対比15%削減し、削減実績を定量的にレポートする
KR2:社内のプラスチック削減プロジェクトを立ち上げ、月次で進捗を公開する
KR3:サステナビリティに関するイベントを年2回開催し、満足度80%以上を達成する
導入が進むOKRとその背景
近年、国内外でOKRを導入する企業が増加しており、その取り組みはスタートアップからグローバル企業にまで広がっています。日本国内でも、デジタルトランスフォーメーション(DX)や新しい働き方改革の一環として、リモートワークや成果重視の文化に合致する企業でOKRの導入が進んでいます。
OKRが広まった背景には、業績を重視しつつも柔軟に目標を設定・修正できるためです。市場の変化が激しい現在、特に中小企業では長期的な目標よりも四半期ごとに見直せる短期目標の方が業績向上に効果があるとされており、OKRがそのニーズに適しています。さらに、目標達成に向けた社員全員の足並みが揃うため、チーム間や社員間の連携を強化しやすいというメリットも、中小企業での普及を後押ししています。
OKR導入によって期待される効果
OKRを導入することで以下のような効果が期待できます。
①透明性の向上
目標や進捗が組織全体で共有されるため、社員一人ひとりが自分の役割と達成すべき成果を理解しやすくなります。これにより、チーム内のコミュニケーションが促進され、全員が同じ方向性で行動できるようになります。
②柔軟な目標管理
四半期ごとに目標を更新することで、組織が市場や業務の変化へ迅速に対応しやすくなります。また、状況に応じて目標を柔軟に調整できるため、長期的な計画と短期的な成果のバランスを取ることが可能になります。
③挑戦的な目標設定
実現可能性の高い目標よりもチャレンジングな目標を掲げることで、社員の成長意欲を引き出し、個人やチームの成果を最大化する効果があります。Key Resultsの達成度が70〜80%であっても良いとされており、挑戦を奨励します。
人員が限られている中小企業だからこそ全社員が目標を共有し、自社が置かれた経営環境の変化に柔軟に対応し、高い目標に挑戦し続けることが企業の存続や発展に繋がります。
OKRの導入が適している企業
OKRは、変化の激しい業界やイノベーションを求める中小企業に適しています。具体的には、以下のような特徴を持つ企業で効果が期待できます。
①迅速な成長や変化が求められる企業
スタートアップ企業や急成長中の中小企業にとって、OKRは短期的な目標管理に適しています。
②部門間の協力体制を強化したい企業
OKRの透明性は、各チームが互いの目標を理解し、協力しやすい環境を作り出します。
③従業員のエンゲージメントを高めたい企業
OKRは社員の自己効力感を高め、主体的な目標達成行動を促進します。
上記の内容から、あなたの企業はOKRを導入することで目標の達成や組織の成長を実現できそうでしょうか。次はOKRの導入のプロセスについて解説します。
OKR導入のプロセス
以下の3つのステップで進めると、中小企業でもOKRを導入することができます。
ステップ1:目的を明確にする
OKRを導入するにあたり、まず「なぜOKRを導入するのか」を明確にする必要があります。「組織の成長を促進するため」「部門間の協力を強化するため」「社員のエンゲージメントを高めるため」など、導入目的を定めることで、OKRの運用が組織の実情に合ったものとなります。また、定めた目的は全社員に共有します。
ステップ2:ObjectiveとKey Resultsの設定
次に、組織全体の目標に沿ったObjectiveと、具体的な成果を示すKey Resultsを設定します。Objectiveは曖昧な表現ではなく、組織が進むべき方向を示し、達成意欲をかき立てるような魅了的な内容にすることが重要です。一方、Key Resultsは具体的かつ数値化され、進捗の測定が可能なものにします。
ステップ3:進捗の定期的な確認とフィードバック
OKRの運用においては、進捗を定期的に確認し、必要に応じてフィードバックを行うことが重要です。四半期ごとや月ごとに評価を行い、目標達成のための進捗状況をチェックし、必要に応じて目標に向かう道筋の調整や改善を実施します。
中小企業のOKR導入例
国内の中小企業でも、OKRを導入して成果を上げている例は少なくありません。特に、業界の変化が激しく、限られたリソースを効率よく活用する必要がある中小企業において、OKRは短期的な目標管理や従業員のエンゲージメント向上に役立っています。以下に、OKRを導入した日本の中小企業の具体例を3つご紹介します。
IT企業A社は、開発スピードと市場対応力を向上させるためにOKRを導入しました。この企業では、OKRを四半期ごとに設定し、各プロジェクトごとに短期目標を設けることで、プロジェクトの進捗がスムーズになり、開発リードタイムの短縮に成功しました。
●導入効果
・各チームの目標が明確になり、優先度の高いタスクに集中できるようになった。
・四半期ごとにOKRを見直すことで、顧客からのフィードバックを反映した製品改良がタイムリーに行えるようになった。
・社員のエンゲージメントが向上し、開発チーム全体でのコミュニケーションが増加した。
製造業B社は、部門間の連携を強化し、品質管理の精度を上げることを目的にOKRを導入しました。特に製造現場と品質管理部門が一体となって目標を追求する仕組みを作るため、OKRが活用されています。
●導入効果
・製造部門と品質管理部門の間でOKRを通じて共有目標が明確になり、改善活動が具体化した。
・不良品率の低減や納期の短縮が進み、クライアントからの信頼度が高まった。
・目標達成度の定期的なレビューにより、現場の意見が反映されやすくなり、従業員のモチベーションが向上した。
小売業C社では、売上向上と顧客満足度の向上を目的にOKRを導入しました。各店舗ごとにOKRを設定し、特に接客スキル向上や在庫管理の効率化といった分野で成果を上げています。
●導入効果
・店舗ごとに目標を可視化したことで、店舗スタッフ全員が売上目標に向けて一致団結するようになった。
・在庫管理の改善による欠品の減少や、顧客満足度が向上した。
・四半期ごとにOKRを見直すことで、シーズンごとに効果的な販売戦略を立てやすくなった。
これらの事例に共通する成功要因は、OKRを通じて組織の目標が明確になり、各チームや従業員が具体的な達成目標を持って動けるようになったことです。また、定期的なレビューやフィードバックにより、進捗が見える化され、全員のモチベーションが向上しています。
OKR導入時の留意点
OKRには多くのメリットや成功事例がある一方で、導入時には以下のような点に留意する必要があります。
①目標の数を増やしすぎない
OKRを導入する際、目標を増やしすぎると、社員一人ひとりの負担が増え、集中力が分散してしまいます。理想としては、1つのObjectiveに3〜5つのKey Resultsを設定し、達成すべき具体的な目標に集中できる環境を整えることが重要です。
②トップダウンだけではなくボトムアップの視点も重視
OKRはトップダウンで目標を決定するだけではなく、ボトムアップで社員が積極的に目標設定に関わることが重要です。ボトムアップのプロセスを取り入れることで、社員一人ひとりの目標への理解が深まり、自発的な行動が促されます。
③結果に固執しすぎない
OKRの意図は、成果にこだわること以上に、目標に向かって成長するプロセスにあります。結果が必ずしも100%達成できなくても、組織全体が成長し、新たな気づきを得ることが重要です。
OKRと目標管理の違い
OKRは、他の目標管理手法であるKPIやMBO(Management by Objectives)と比較して、達成意欲を刺激するような挑戦的な目標を設定しやすい点が特徴です。また、KPIやMBOは具体的な業績指標を達成することを重視しますが、OKRは挑戦的な目標を通じて成長を目指すフレームワークであり、100%の達成ではなく70〜80%達成を目安とする点が異なります。
まとめ
OKRは、目標達成のためのフレームワークとして、組織全体の一体感を高め、成長と成果を促進する方法です。短期的な目標に柔軟に対応し、挑戦的な目標を掲げることで、組織の成長と社員の意識向上につながります。OKRを導入することで、中小企業は市場変化に迅速に適応し、チーム間の連携を強化することが可能になります。