中小企業にとって人事制度は、従業員の働きがいや企業全体の成長に大きな影響を与える重要な位置づけにあります。また、時代の変化や労働環境の移り変わりに対応するためには、現行の人事制度を必要に応じて改定を行うタイミングがくることが考えられます。
人事制度を構成するメインシステムとして、「等級制度」「報酬制度」「人事評価制度」があります。また、近年重要度が増しているサブシステムとして、「面談制度」「教育制度」があります。
これらの人事制度の見直しや改定を適切なタイミングで実施することが出来れば、従業員のモチベーションが高まり、自社の持続的な成長を実現することができます。
本コラムでは、特に中小企業がどのようなタイミングで人事制度の改定を検討すべきかについて解説します。
社内環境の変化が見られたとき
従業員数の増加による影響は非常に大きく、既存の人事制度で対応するのが難しくなることがあります。特に小規模を想定した人事制度の場合には、制度の仕組み自体が変化に対応しづらいものであることが多く、そのままの制度を運用してしまうと管理負担が増大する可能性があります。この場合には規模に対応した制度設計が求められます。
また、近年は外国籍社員の採用増加やリモートワーク・副業の広がりなど、多様な働き方が普及しています。このような従業員の多様性の進展に伴って、適切に評価や福利厚生を見直し、柔軟な制度を導入することが必要不可欠です。
経営方針や戦略の変更
事業領域の拡大や新規事業への参入は、従来のビジネスモデルとは異なる人材配置やスキルが必要となります。例えば、新規プロジェクトに従事する人材に対して特定の能力が求められるとしたら、その評価基準や報酬体系も整えなければなりません。
また、企業理念や経営者のビジョンが変化する場合も、人事制度の見直しが不可欠です。企業としての方向性や価値観を社員全体に共有するためには、それに一致した人事評価や報酬体系の整備が効果的です。
人材確保・育成が困難になったとき
現在の労働市場は非常に競争が激化しており、特に中小企業においては人材の確保がますます難しくなっています。このような状況で採用競争力を高めるためには、報酬体系や福利厚生の見直しが重要です。企業の持つ魅力を強化し、求職者にとって「ここで働きたい」と感じられるような制度を設計する必要があります。
また、離職率の増加も見逃せないサインです。もし離職者が増えている場合は、その背景にどのような制度の欠陥があるのか、労働条件や働く環境の改善が求められるのかを把握し、それに応じて制度を見直すことが求められます。
法令や社会環境の変化
法令の改正に対応しないと、企業がペナルティを受けるリスクがあります。例えば、労働基準法の改正により労働時間や休日に関する規定が変わった場合、それに従って就業規則や人事制度を見直す必要があります。制度の遅れが法令違反を招くことのないよう、改正に即した対応が不可欠です。
また、ダイバーシティやインクルージョンといった社会的な要請にも応えることが求められています。特に女性や障がい者など、多様なバックグラウンドを持つ人材を活用するための制度整備が、企業にとっての義務とされることが増えています。このような社会的潮流に乗り遅れている場合には見直しの必要性があるといえます。
従業員の声に基づいた見直し
従業員満足度調査や社員教育面談などを通じ、社員が抱えている不満や会社に対して期待していることを把握するのは、社員から自社の人事制度がどのように見られているかを知る重要な機会となります。特に、中小企業の場合はトップと社員の距離が近く、問題に対してより迅速に対応することが可能です。社員の声を反映した制度の見直しは、働きがいやエンゲージメントの向上に繋がります。
例えば、昇給や評価基準が社員の成長に繋がらないと感じられている場合、それに応じて評価制度や報酬制度を改定することで、社員が目標を持って働ける環境を整えることが可能です。
労働生産性の低下を感じたとき
会社全体の目標達成率や業績が停滞していると感じる場合は、評価制度が現状に即しているかを確認する必要があります。特に、目標と実際の評価との間にギャップがある場合、社員が目標を追求する意欲を失うことがあります。そういった場合には、社員の実績が適切に反映されるような評価基準を設け、社員が目標達成に向けて前向きに取り組むことができる環境を作ることが求められます。
また、業務の効率化が重要視されている時代において、評価基準や報酬制度が効率的な業務推進を妨げていないかを確認し、必要に応じて改善を加えることも大切です。例えば、業績評価が単純な数字だけで行われている場合、その背景にある工夫や努力が評価されず、社員のモチベーションが低下することがあります。そのため、業務プロセスやイノベーションの度合いを評価する項目の導入に検討の余地が生じます。
まとめ
中小企業にとって人事制度は社員の働きがいや企業の成長に大きな影響を与えます。そのため、時代の変化や経営環境の変動に応じて適切に人事制度を改定することで、社員のモチベーションを高め、企業の競争力を向上させることが可能になります。
現状、自社において本コラムで解説したような問題が生じている場合には、人事制度を見直し、自社の成長に必要な要素を盛り込んだ、新たな人事制度に改定することが、課題を解決する近道になるかもしれません。
そのため、一部でも当てはまる場合には、自社の人事制度見直し・改定を検討してみてはいかがでしょうか。