企業が行うメンタルヘルスケアにはどのような効果があるのか

メンタルへルスの問題は近年、多くの企業や経営者が注目している重要なテーマです。「企業が従業員のメンタルヘルスの問題に配慮し、適切なケアを提供することは、従業員の離職率を下げ、長期的な定着につながる」等と考えられているためです。
しかし、その効果に対する懐疑的な見方や、実際にケアがどのように機能するかについての意見もあります。
では、実際に企業が行うメンタルヘルスケアにはどのような効果があるでしょうか。

メンタルヘルスケアケアの種類と推進の要点

効果を検証するにあたって、まずは、企業が行うべきメンタルヘルスケアの種類について説明します。

メンタルヘルスケアの種類は、目的による3つと、実施主体による4つの分類に大別されます。目的による分類は、「未然に防止する」、「早期に発見措置を行う」、「職場復帰の支援を行う」という1次~3次予防の取り組みです。
実施主体による分類は、「労働者自身」、「管理監督者」、「産業医など事業場内スタッフ等」、「事業場外の機関・専門家」の4つです。

厚生労働省:Ⅰ メンタルヘルス対策のポイント

メンタルヘルスケアを効果的に進めるためには、特に実施主体による4つのケアが、各事業場の実態に応じて、継続的かつ計画的に行われるようにすることが重要となります。
メンタルヘルスの問題は従業員一人一人の状況や職場環境によって異なるため、単一の方法で全ての従業員に適切なケアを提供することは容易ではありません。実施主体が異なるケアを連携して行うことで、セルフケアや管理監督者による観察、専門家のサポートなど、多面的なアプローチを組み合わせることができ、より効果的な予防や対応が可能になります。その推進のポイントは、まず事業者自らが事業場におけるメンタルヘルスケアを積極的に推進することを表明することです。
次に、衛生委員会等で社内調査を行い、心の健康づくり計画やストレスチェック制度の実施方法に関する規程を策定し、周知することが必要です。その中でもストレスチェックは、2015年12月1日より従業員50人以上の企業に、年1回の実施が義務付けられています。目的は、労働者のメンタルヘルス問題の予防と早期発見、そして働きやすい職場環境の構築を推進することにあります。

企業には、ストレスチェックの実施に加え、その結果に基づき必要に応じて労働者への面談やフォローアップを行う義務も課されています。

メンタルヘルスケアにより期待できる効果と具体的な取り組み内容

法的な義務があるストレスチェックを含むメンタルヘルスケアへの取り組みにより企業が得られる効果の一例としては、組織への帰属意識向上が考えられます。
まず、メンタルヘルスケアによって、従業員の精神的な負担や過剰なストレスによる疲労が軽減されることが期待されます。それにより、従業員は心の余裕を持つことができ、業務に対する集中力を維持しやすくなります。集中力が維持されることで、業務の成果・品質の向上が想定されます。その結果として、従業員は日々の業務に対し達成感を感じ、業務や企業に対する満足度を感じることができます。ここでのポイントは、ストレスが完全に取り除かれるわけではなく、精神的負担が適切に軽減されることが重要だという点です。

また、企業がメンタルヘルスケアを含めた健康管理に積極的に取り組む姿勢を示すことで、従業員は、自分が企業から大切にされていると感じることができます。これにより、企業に対する満足度や信頼感が増し、帰属意識の向上につながることが期待できます。
しかし、この効果を最大化するためには、メンタルヘルスケアを他の施策と連携させる必要があります。例えば、適切な評価制度、昇進の機会、労働環境の改善などが総合的に整備されることで、従業員は自分の成長が評価される機会を得て、能力や貢献意欲が高まるとともに、更なる自己成長を促すことができます。
具体的な取り組みとしては、ストレス管理セミナーやカウンセリングサービスの提供、ワークライフバランスを考慮した柔軟な勤務形態などの施策を併用することが考えられます。これらの施策を連動させることで、企業が従業員への就業環境や処遇を重要視していることを示し、従業員に安心感と支援を提供できます。

企業はメンタルヘルスケアに取り組むことで、従業員の安全衛生を維持してモチベーションを高めていくという効果が期待できます。さらに、複数の施策と組み合わせることによって、従業員を包括的にケアすることができます。

メンタルヘルスケアの課題

メンタルヘルスケアには期待できる効果がありますが、取り組む順序や効果測定には注意が必要です。
例えば、労働環境や待遇、職場の人間関係などの重要な要素が十分に整備されていなければ、メンタルヘルスケアの効果は限定的となってしまいます。このような場合は、メンタルヘルスケアよりも前に、まずは従業員の不満となっている原因を取り除く必要があります。
従業員が抱えるストレスの原因は様々であり、その根本原因が解決されなければいつまでもストレスを感じ続けることになります。特に、業務負荷が過剰な環境では、メンタルヘルスケアのみで精神的負担を軽減するのは難しく、業務量の適正化や業務範囲の見直しが先決です。
また、適切に順番を立ててメンタルヘルスケアを導入した場合も、導入方法を誤ると効果が小さくなってしまいます。
日本は文化的な要因として、メンタルヘルスケアに対する偏見が根強い傾向にあり、従業員が企業の提供するメンタルヘルスケアを積極的に利用しないことも考えられます。
さらに、当然ながらあらゆる施策の展開には、コストとリソースが必要になり、その点も課題となります。メンタルヘルスケア単独で見ても、専門家の雇用、セミナーの実施、カウンセリングサービスの提供など、中小企業にとっては大きな負担となります。
そもそもメンタルヘルスケアは、各施策の中でも「予防的」な性質を持つため、効果が短期的に現れにくいと言えます。しかし、経営者はその価値を長期的な視点で評価し、継続的に投資するという姿勢が重要です。

このようにメンタルヘルスケアに取り組む際は限られたリソースの中で工夫を講じた上で、長期的な視点で投資することが求められます。

まとめ

メンタルヘルスケアは、従業員の精神的な健康を維持し、組織全体の満足度や帰属意識を向上させるために企業が行うべき基本的な施策の1つです。しかし、それ単独で全ての問題を解決できるわけではありません。労働環境や待遇、職場の人間関係など、他の施策と連携させた上で順序だてて実施することで、より高い効果を得られ、最終的には組織への帰属意識の向上につなげられます。根本的な問題を解決するためには他の施策との連携が不可欠になる場合が多いのです。
全体感を持って施策に取り組むことで、従業員が安心して働ける環境が提供し、企業が長期的な成長を遂げていくための基盤を構築することにつながります。